「じゃあ、シエラさんには連絡してあるのね？」
　銘柄不明のシケモクは、無理矢理灰皿と口付けを交わさせられた。
「まあな。で、本題はこれからよ」
　シドは、テーブル一杯に広げられた地図を指差しながら、同じテーブルに座っているティファに言った。
「まず、ロケット村へ連れてくとなると、一番近いのがこのルートだ」
　地図の上に置かれた人差し指が、紙の上を右へ滑ってゆくと、いったん地図から離れ、左端から再び右へ移動した。
「ウータイを横断するルートが一番早い。あるいは」
　シドは、もう一度地図の上に指を置き、今度は左へ走らせた。
「海を渡って、ニブル山を抜けるルートをとる。ちぃっと遠回りになるが、こっちの方が安全確実。ただ、どのルートも空路は使えねえ。どっちともまだ整備中で飛べる状態じゃねえからな」
「それで、ファームにチョコボを取りに来たわけね」
「ま、そういうこったな」
　そう言って、新しい煙草に火を着けると、シドは広げた地図を片付け出した。
　ごく素朴な感じの部屋に、深呼吸と共に吹き上がった煙が舞う。
「こっちにいると知られた以上、エアリスはもうミッドガルにはいられねえ！　神羅の連中は、みんな鼻だけは利きやがるからな」
　シドは、灰が飛び散るにも関わらず、煙草を挟んだ指を、指揮者よろしく宙に振り回した。
「セフィロスの方はまだ何とかなるだろうが、今回ばかりは、あの娘には危険すぎるぜ」
　ティファがたずねた。
「誰か、エアリスに一緒に着いていくの？」
「さて、どうなんだかなぁ……。そういう話は聞いてないぜ」
　そのことに関しては、正直、あまり考えていなかった。
「まあ、誰かが同行することにはなるだろうな」
　シドは、自分でもかなり適当だと思う返事を、ティファに返した。
　その時だ。
　木材が破壊される音がしたかと思うと、それに続いて、様々な絶叫が響きわたった。
「わーっ、だめだよ！　ロンド！　やめなさいってばー！」
「ぬおーーっ！！」
「早く！　手綱を！！」
「クラウドー！　そっちいったー」
「だーーっ！！」
「いでででででで！！」
「あー、セフィロスーーっ！」
「いやーーっ！」
「ユフィ！　こら逃げるな！」
「うわーっ！　やめろー！」
「おろ〜〜」
　ほろ、とシドの煙草から灰がこぼれ落ちた。
　聞こえてきたのは、全てチョコボ舎に向かった仲間の声だった。
「……何やってんだ？　あいつら」
「さあ……」
　そう答えたティファも、殆ど絶句しているのに近かった。
「あのう……コーヒー入りましたけど、いかがですか？」
「……いただこうかしら、クリンちゃん」
　目線が、無意味に泳いでいる。
「お、おう。──別料金かい？　お嬢ちゃん」
「私、兄さんほどがめつくありませんから」
「そ、そうだよな……。うまいぜ、このコーヒー……」
「ありがとうございます！」
「おう──元気いいなぁ……お嬢ちゃんは……」
　しばし、二人の会話は、無意味にコーヒーをすする音に変わった。
　太陽は上機嫌。実に良い天気である。