Best Friend

「お～～っす、セフィ！」
室内に響き渡るさわやかで透る声。
「…ザックス、その呼び方はやめろと言ったはずだ。」
呼ばれた男、銀色の長髪が特徴。この世で最も強い男、セフィロス。その表情は常にポーカーフェイスだ。
「まーたまた、実はうれしいんじゃねえの？」
「皆が見てるぞ。」
ザックスはキョロっと辺りを見まわした。セフィロスの言った通り、室内にいる者ほとんどがこちらを何事かと言わんばかりの様子で覗っていた。ザックスは口元を上げる。
「あんた、気付いてないんだな。オレじゃない、皆、あんたを見てるんだよ。」
「ふん、ばかばかしい、ほら、さっさと訓練を開始しろ。」
ザックスは、ふん、と横を向いてしまったセフィロスをちらっと覗った。心なしか照れているような気もする。ザックスはくすっとセフィロスに聞こえない声で笑った。
「あ！なあなあ、聞いてくれよ！今日さ…。」
「ザックス…お前の‘聞いてくれ’は今日もう３度も聞いた。朝一と昼食時、そして今だ。」
「お？よく覚えてんじゃん。おれって愛されてるぅ～～。」
ザックスはヒュ～と口笛をふいてセフィロスの背後から肩に腕を回した。身長は二人とも同じ位だがややセフィロスの方が高い。
「何をやってるんだ、お前は…。」
セフィロスは磁石の砂鉄のようにひっついているザックスにあきれかえっている。周囲からはひそひそとざわめきがおこった。
「おい、あいつセフィロスさんにあんな慣れなれしくしてやがるぜ。」
「ああ、いつものことだ、ザックスは誰に対してもああなんだよ。」
「へぇ～、オレだったら考えられねーぜ、セフィロスさんが切れてみろ。すぐさまあの長剣でばっさりだ。」
「はっは、心配しなくてもお前はそこまでセフィロスさんと仲良くなんてできんさ。」
「仲良く？はっ、そりゃ、こっちがおことわりだ。尊敬はしてるけどなんか見た感じからしておっかねーもんな。」
ひそひそごえはザックスの耳にも届いていた。おそらくセフィロスの耳にも入っていることは間違い無いだろう。だがセフィロスは相も変わらず表情はさっきのままだ。
「セフィロスさんっ、いろいろ言われてますね～。」
ザックスか茶化すようにセフィロスの耳元でささやいた。セフィロスはうざったそうに振り向く。
「おい、ザックス、いいかげんに離れんか、ファーストにもなってみっともないぞ。」
「えっ。」
ザックスは目を丸くして呆然とする。セフィロスはザックスから離れると少し間をあけてむかいあった。
「なんで、あんたがそれ、知ってんの？オレがファーストになったのって今日の今日、それもついさっきだぜ、辞令がでたの。」
セフィロスはまだザックスのまとわりがついてるのを払うように髪の毛に手を通した。
「さあ、なんでだろうな、そんなことより、訓練だ。行くぞ。」
セフィロスは剣を構えた。が、ザックスは納得がいかないらしい。背中の大剣を抜こうとしない。代わりに頭をかきむしっている。
「だぁ～～～！！なんでだ～～！！オレ、驚かそうと思ってたのにぃ～～！」
悔しがっているザックスを見てセフィロスは剣を下ろし、ふっとちいさく笑った。それを見逃すザックスではなかった。
「あ、今笑ったな。見たぞ、オレは見たぞ。セフィロス、なんか隠してるな。」
「何も隠してはないさ、ほら。」
セフィロスは剣を持ったまま軽く両手を広げた。
「ちが～～う！！そんなんじゃない、ぜぇ～～たい何か秘密が…。」
「んなもん、あるか。」
突然ザックスは床に膝をついて拝むように手を合わせてセフィロスを見上げた。
「教えてくれ！何で知ってんだっ！？セフィロスぅ～～。」
「お前はこんな下らんことに土下座をするのか。」
その通りである。
「オレにはいっしょ～のことなんだっ。な、頼むよっ。」
本当にこの瞳をうるうるとさせているザックスはファーストになったんだろうか。セフィロスはちょっと考えを改めなおさなくてはいけないんじゃないかとため息をついた。
「分かった分かった。教えてやるからさっさと立て。みっともない。」
「おう！」
ザックスはバッと立ちあがり嬉しそうにセフィロスに耳を傾けた。セフィロスの口とザックスの耳の距離、およそ１０センチ。
「…お前なぁ…。」
「ん？なになに？」
ザックスはわくわくと耳を傾けている。セフィロスはもう疲れたのか、ザックスの相手はしないことにした。
「なんとなく、だ。」
「はっ？」
ザックスはもっと耳を澄ます。これにはさすがにセフィロスは一歩引くしかなかった。
「何となくそう思っただけだ。お前がさっきのセカンド徴収令が済んでここへ来て一番に話しそうなことといったらそのくらいだと思ったのさ。」
ザックスは目を一瞬見開くとその表情は押しこめて、いつもの顔に戻しセフィロスと向かい合った。
「さっすが～っ。そこまで読むとは！よし、今日はオレのおごりだ！好きなもん食いに行こーぜっ。」
「その前に訓練だ。」
「はいは～いっと。そんじゃ、行きますか。」
ザックスはニッと口元を上げて背中の大剣を抜き放った。セフィロスも長剣を構えなおす。
「来いっ！」
「行くぜっ！」
ザックスは心の中で思った。もしかして自分のことを本当に分かってくれているのは、この練習なのに容赦のかけらも無いセフィロスだけなのかもしれないと…。
剣が交じり合い、一瞬だけ目と目が合ったとき、二人は薄く口元を上げた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～～～～～～おわり～～～～～～～